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インタビュー

 
ミームの心臓 
主宰・脚本・演出
酒井 一途

慶應義塾大学文学部国文学専攻2年

ミームの心臓とは?
慶應義塾大学在学中の酒井一途を中心に、2010年9月旗揚げ。現代における深刻な社会問題を真正面から取り扱いつつも、 現実世界に生きることへの希望を、確かに感じられる作品創りを心懸けている。“ロマンチシズムに溢れたリアリズム志向の物語”という矛盾した方向性を標榜。 その作風は、「品の良い、透き通った作品」との評価を受ける。

「ミーム」とは、人の心から他者の心へと伝染し、進化していく文化の遺伝情報のこと。遺伝子ジーン(gene)が生物的に人の身体を形成していくのに対し、 意伝子ミーム(meme)は文化的に人の精神を形作っていく存在となる。
私たちの脈打つ心臓から送り出されたミームが、お客さまの心に問題意識の欠片として蒔かれ、 多様な姿形をして育っていくことを願い、劇団名とした。

●本公演団体2団体目、「ミームの心臓」です。まず団体について教えてください。いったいどんな団体なのでしょうか?

初めまして。ミームの心臓主宰の酒井一途です。よろしくお願いいたします。

ミームの心臓は、僕の作品を上演する劇団です。
僕の作品を信じてくれる同志と、共に闘っていく劇団です。
僕の作品を観に来てくださる方々によって支えられている劇団です。

僕の目的は啓蒙じゃありませんから、「答え」を与える作品を作るつもりはありません。作品の中で対立する軸を設定することで、「これまでとは違う視点」を持ってもらえたらとの思いがあります。物事について新しく考えるきっかけを提供できたら素敵なことだな、と。

●団体名の由来を教えてください。「ミーム」という概念とどのように出会い、またどのように劇団名に使おうと思うに至ったのでしょう?
名は劇団の顔ですから、拘りたいとの思いは強くありました。現在は僕のブログの名称となっている「震源地。」なども候補だったのですが、「劇団震源地。」ではどうもアングラな感じが否めない。東京乾電池にもなんとなく似ていますし。
それで迷っていたところ、どういった経緯であったか、天啓のように「ミーム」という概念に出会ったのです。続く「心臓」は割とスッと出てきました。身体から血を送りだすポンプのように、劇団からミームを送りだしたいという目的をストレートに表す言葉です。

売れる名前の傾向については随分前から調べていて、「?の?」とすると良いとは知っていました。ジブリは大抵これですね。「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」etc…
他にも改めて探してみると、「ん」「ー(傍線)」「カタカナ」が入ると良いということで、これはもうまったくの偶然なのですが、「ミームの心臓」はすべて条件をクリアしているわけです。コレしかない!と思いました笑。

「ミームの心臓」にしろ「震源地。」にしろ、共通していることは「劇団」を中心点にそこから広がっていくというイメージです。なにかが発生し、発信される場所であってほしいとは常々考えています。

●劇団名の愛称はありますか?
そのまま「ミーム」ですね。本当にそのままなので、勝手に浸透しています。

●劇団をつくったきっかけというのは何ですか?
高校では演劇部で活動していました。演劇部って、良くも悪くも部活なんです。当然部員は「部活として演劇を楽しもう」としている人が大半です。そうすると僕なんかは意識が食い違っていくわけです。「自己満の楽しさに陥るな、厳しさの中に楽しみを見出せ」とか言っても、目的が違うわけですから、僕が異端になるわけです。
そんなことがあったから、大学入学時から「サークルとして演劇を楽しもう」とするつもりはありませんでした。でも演劇をやめるつもりは毛頭ない。それなら自分が活動できる場所を作って、志の高い仲間を集ってやろうじゃないか。これが劇団旗揚げの理由です。大学入学前の三月には、劇場を取っていました。

●ここがうちの劇団のいいところ!悪いところ!というのを教えて下さい。
いいところは、最近知ったのですが、関わる人がありのままでいられる場所であることのようです。僕自身、自分に仮面を被せて生きるのが嫌だということもあり、自然とそういった雰囲気が作り出されているのだと思います。芝居を作る上では、自己をさらけ出す必要があるわけで、そのためには非常にいいことなのではないかな。

悪いところは、専属のプロデューサーがいないこと。劇団は運営していくものですから、規模を大きくしていくためには、資金を回す役目をしてくれる人材がいることは必須です。夢の遊眠社の野田秀樹さんには高萩宏さんや北村明子さんが、キャラメルボックスの成井豊さんには加藤昌史さんがいました。
プロデューサーの才能っていうのは、稀有なものなんですね。公演の遣り繰りはもちろん、予算を組み資金を集め、ということを一手に引き受けることになる。完全に裏仕事ですし、地味な作業もやっていかなくてはならない。そういう才能がある人は大抵他の職業に就いてしまうわけです。
つまり、なかなか出会えない。しかし「出会う運」というのも結局才能の一つでしょうから、いつかそのような出会いがあることを期待して、首を長くして待つこととします。実は案外もう近くにいるかもしれませんし。

●慶應義塾大学の演劇活動環境について、劇団の数や、普段の稽古や公演の場所など教えて下さい。特にミームの心臓は演劇研究会やサークルの出身ではないですが、そのあたりで好都合・不都合などあるのでしょうか?
なんか福澤先生が演劇好きじゃなかったみたいなんですよ。まあ実学の学校ですから仕方ないのですが。それでも新劇の走りの小山内薫さんとかいたんですけどね。最近では劇団四季の浅利慶太さんとか、演出家の鵜山仁さんとか、燐光群の坂手洋二さんとか、チェルフィッチュの岡田利規さんとか。優秀な人材は輩出してます。

公認の演劇サークルは「慶應義塾演劇研究会」と「創像工房in front of.」の二つです。今回どちらからも客演してもらってますけど、僕は二団体とも繋がりないです。稽古場所は使い勝手が悪いですが、教室を使ってます。あとはそうですね、学校内に一応小屋があって公演を打てるものの、使えるのは公認の団体のみです。サークル抜け出しても、学内での好都合は特にないです。

●今回このようなフェスティバルに参加になるわけですが・・・酒井さん自身も今年冬に行われる「日本の問題【学生版】」の主催を務めていらっしゃいますね。今まで学外の劇団などとの付き合いはありましたか?また、その場合どのようにしてその交流の幅を広げていらっしゃるのでしょうか?
高校の頃はDULL-COLORED POP主宰の谷賢一さんにお世話になっていました。ブログを読んで超面白かったので、メールしたら「稽古場来いよ」とお返事をくださったのがきっかけです。それが十七の時。谷さんはちょうど十歳上でした。ですから僕が二十七になる時、彼を越えることができているかどうかが、ひとつ僕の大きな指標ですね。

「学生版」のお話は「日本の問題」総合プロデューサーの松枝佳紀さんからお声掛けいただきました。松枝さんとの出会いは、谷さんの現場です。初対面で突然「演劇で食べていけますか?」と聞いて、変な顔をされた覚えがあります笑。二年後に一緒に仕事をすることになるとは驚きですよね。縁とは不思議なもので、どこで繋がってくるかわからないものです。

交流の幅を広げるのは、僕の場合、闇雲に声を掛けていくのではなく、その場にいる人の中でひとり、特に興味深い人を見つけて話を聞きに行きます。より多くの人々とその場限りの話をするだけで終わるよりも、誰かひとりでもその後密に繋がっていく可能性を見つけたいと思っていますね。

●慶應義塾大学のお勧めスポットはどこですか?理由も教えて下さい。
日吉の森です。マムシ谷と言います。マムシがいるそうです。狸が出たという噂も聞きます。のんびりできます。渋谷から二十分の自然の地です。





●次は酒井さん自身についてお伺いします。演劇をやりたいと思ったり、自分で創り始めたのはいつからですか?そのきっかけは何ですか?
幼い頃から母に連れられて商業演劇やミュージカルを観ておりまして、その頃から漠然と舞台に対する憧れは植え付けられていました。とは言え、何故か中学でも高校でも演劇部に入るつもりはありませんでしたね。
高校は最初応援団に所属していたのですが、一年の夏頃にはどうも人間関係がうまくいかなくなってしまった。そんな時クラスの友達に誘われて観に行った演劇部の公演が、想定外の作品だったんです。高校演劇って、「青春!」ってな感じの偏見がどうしてもありますよね。でもウチの演劇部はケラリーノ・サンドロヴィッチやってたんです。登場人物ほぼ全員死んでしまって。暗い芝居は好きじゃなかったけれど、「これだったら入りたいかも」と思って、足を踏み入れたわけです。

入った頃は役者を目指していて、力入れてオーディションに望むものの、先輩がなかなか役に選んでくれない。多分あの頃の僕は、良くない意味で相当に生意気でした。高二が終わる三月に、初めて大きな公演に立たせてもらえて、それで違和感に気付いた。当時は漠然としたものでしたが、今にして考えれば、自意識が向かう方向が役者のそれではなかったのだろうな、と。自分の身体や声を駆使して自意識を表現するのではなく、文章で自己を表していくのが僕の特性だったのでしょう。

作品を書き始めたきっかけは謎です。当時のノートを読み返すと、社会への問題意識を書き綴っているときに、物語へと派生していったようですね。演劇部で上演するつもりもありませんでしたし。ただ今現在、こうして将来的に演劇を続けていく意志が芽生え、ぐんぐんと丈を伸ばしていっている以上、この道に進むのは宿命であったのだろうと考えています。

●高校演劇をしていた頃に劇場公演を行っていますね。通常高校演劇というと基本学内、コンクールでホールなどを使うくらいのイメージなのですが・・・どうして劇場公演に踏み切ったのでしょうか?
僕の高校の演劇部は、毎年卒業公演は外小屋なんです。ただ、わざわざ外小屋を使っているのに観客は例年内輪ばかりでしたから、そこはなんとかしようと思って、結構いろいろと動きました。お陰でその後に繋がったこともあります。たとえば、「喰いタン」や「デカワンコ」などのドラマを書いていらっしゃる、シナリオライターの伴一彦さんが観にいらしてくださって。旗揚げ公演の際にコメントを下さったり、お仕事も少しさせていただきました。

●今の自分にとって演劇はどのような存在ですか?
「演劇で食べていけますか?」は今にしてみれば愚問この上ない。
僕は「食べる」ために書くのではない。「生きる」ために書くのです。

●演劇以外に好きなものがあったら教えてください。
書くこと。趣味は読書と映画鑑賞です。

●演劇・映像などジャンルに関係なく、多くの人に観て欲しい!というお勧めの作品があれば教えてください。
お勧めの作品って苦手で。感性って人それぞれですから、響く作品も百種百様なわけです。大衆受けする作品で「これ良かったな」程度ではなく、本当に自分の感性に合った作品を見つけることこそ喜びだと思っているもので。
ここには今現在の僕が好きな作品、またはかつて衝撃を受けた作家・作品を書いておきます。必ずしもイコールではありません。意外と日本の純文学はあまり読みません。海外、特に西欧の思想が好き。

敬愛:ロマン・ロラン、ハインリヒ・ハイネ、オルテガ・イ・ガセット

小説:村上春樹「ノルウェイの森」、村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」、宮本輝「錦?」、森絵都「永遠の出口」、本多孝好「真夜中の五分前」、大崎善生「九月の四分の一」、恒川光太郎「草祭」、安部公房「砂の女」

映画:「ブラザー・サン シスター・ムーン」「ロミオとジュリエット(フランコ・ゼフィレッリ監督)」「風と共に去りぬ」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「カッコーの巣の上で」「フォレスト・ガンプ」「羊たちの沈黙」「もののけ姫」「LOVE LETTER(岩井俊二監督)」





●芸術祭の話に戻ります。「学生演劇」というくくりについて何か思うところはありますか?
面白ければ何でもいいです。ジャンルに縛られて食わず嫌いするのは良くないですから。僕はミュージカル大好きですし、宝塚のような華やかなレビューショーにも心が躍ります。新劇も観るし、小劇場も観るし、商業演劇も観るし、枠にとらわれることはそんなにないです。今後はオペラ、バレエ、歌舞伎あたりも観ていきたいです。

●いわゆる大学生をさすところの「学生演劇」と「高校演劇」とはまた異なるジャンルになると思うのですが、高校生時から劇場公演を行うなど革新的な活動をしてきた酒井さんから見て「高校演劇」はどうでしょう?
高校演劇って大会に出るのがメジャーらしいんですが、僕の学校は期末試験と日程が重なっていて、出場したことないんです。だから他の高校の演劇部の公演を観たことがないんですよね。ウチの部活では、先ほど話に出したようにケラをやったり、長塚圭史とか本谷有希子とか…。暗い作品ばっかり笑。あ、文化祭の公演ではキャラメルボックスもやってましたけれど。そんなわけで、僕にとっての高校演劇は「暗くてシュール」な印象です。何の役にも立たない回答ですね。

●シアターグリーン学生芸術祭についてどう思っていますか?良いところ、悪いところ、期待するところ、気になるところ・・・忌憚のないご意見をお聞きします。
学生劇団が集まることって滅多にないですし、素晴らしい機会の提供であると思います。日藝とか桜美林の学生の話を聞いても、大学内で劇団が蔓延っていて、折り込まれているチラシも学内の劇団のものばかりだとか。それでは外部の情報が入ってこないし、自分から外に出ていくこともない。芸術祭に参加することで、そういった壁を打ち壊すことができます。これは大変意義深いことであると思います。

悪いところとしては、予算面。サークルの学内公演では劇場費がかかりませんから、支出が随分減りますし、その分チケットの値段も安くできます。学外に出るということは、劇場費の数十万が発生するということなんですね。シアターグリーン学生芸術祭でも、劇場費だけでかなり予算を圧迫されます。
ただ劇場側も企画としては赤字が出るものらしく、「意義があることだから」という信念でもって毎年打ち出していると聞きました。次代の文化を担う学生のために、行政がもっと大きく動いてくれたら何よりですよね。もっとも日本でそういうことを期待するのは難しいのでしょうけれども。



●今回の作品についてネタバレにならない程度に教えてください。一体どんな作品になるのでしょう?
夢見ない同世代を危惧し、十七歳の時にこの作品を書きました。
「現代に異なる視点を提示するためには、過去との出会いがあればいい。
 違う時代を生きる若者たちを登場人物に、互いの思想をぶつけさせよう」

そうして出来たのが、保守的かつ現実主義的な現代の若者と、革新的かつ理想主義的な全共闘時代の若者とが、ひとつ屋根の下で邂逅することで始まる物語でした。しかし硬派なだけの芝居に仕上げるつもりはなく、時空を超えたセンチメンタルな恋愛や、時代のズレから巻き起こる笑いによって、良い意味で若さに溢れた作品であると思っています。

大学に入った十八歳の時、根拠もなくそれに伴う努力も向上心もなく、ただ無為に夢を語る同世代を見て感じました。「夢を見よう」とは言ったけれど、僕が求めたのはこんなことじゃないはずだ。これでは世界は何一つ変わらない。そう感じた瞬間、僕自身の理想もまた無意味なものなのではないかとの思いに囚われ、多少厭世気味に陥ったのです。シニカルに現実を見るといった意味で、この経験は確かに越えるべき壁でした。
そして十九歳の現在、内省を繰り返し多くの人と語り合い、壁を乗り越え再び理想主義に回帰した僕は、いま再び世にこの作品を訴え出したいと強く願いました。今観ることに、意義ある作品だと僕は信じています。

すべての若者に観てほしい。すべての、かつて若者だった人に観てほしい。
なにか思うところがあれば、その思いはきっとあなたにとって、貴重なものであるはずです。


●ありがとうございました!
こちらこそ最後までお読みくださり、ありがとうございました。
僕という人間に興味を持っていただけたら、うれしいです。
その上で、僕たちの作る作品を観に来てくださったら、どんなにか。

お待ち、しております。

ミームの心臓 酒井一途
Blog: http://blog.livedoor.jp/hypocenter/
Twitter: http://twitter.com/#!/itto_sakai



参加作品:『ケージ』
 ―自分を認めれば、
世界を違う目で見られるようになるんだよ。
それって、世界に革命を起こすんじゃない?―
   
 作・演出:酒井一途
 出演:中田暁良 笹木皓太(創像工房in front of.) 毛利悟巳 朝戸佑飛 
   池田周大(慶應義塾大学演劇研究会)  小林依通子